最高裁判所第二小法廷 昭和54年(あ)1623号 決定 1980年3月18日
本店所在地
福井県鯖江市莇生田町二三号八番地
貨泉プラスチツク株式会社
右代表者代表取締役
貨泉泉
本籍・住居
福井県鯖江市莇生田町二三号八番地
会社役員
貨泉泉
大正九年一一月一日生
右の者らに対する法人税法違反各被告事件について、昭和五四年八月二八日名古屋高等裁判所金沢支部が言い渡した判決に対し、各被告人から上告の申立があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。
主文
本件各上告を棄却する。
理由
被告人両名の上告趣意のうち、憲法三一条、八四条違反をいう点は、その実質は単なる法令違反の主張であり、その余は、事実誤認、単なる法令違反、量刑不当の主張であつて、すべて刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
よつて、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 塚本重頼 裁判官 栗本一夫 裁判官 木下忠良 裁判官 監野宜慶 裁判官 宮崎梧一)
○昭和五四年(あ)第一六二三号
被告人 貨泉プラスチツク株式会社
右代表者代表取締役 貨泉泉
同 貨泉泉
被告人らの上告趣意(昭和五四年一一月二〇日付)
第一、控訴趣意第一点(原判決罪となるべき事実第二の事実についての理由のくいちがい)に対して控訴審はその論旨に理由がないと判示した。しかし、この判示には不服である。原判決は、仕入額の事実認定に相反する仕入額を認め、法人税法による課税標準とほ脱税額の計算基礎額を誤つて判示したからである。
すなわち、右誤判は仕入額の事実誤認ないし単純な差引計算の誤謬をしたために、罰則規定たる法人税法一五九条二項のほ脱税額の算定に著しく影響し、かつ刑訴法四一一条の三号に定める判決に影響を及ぼすべき重大な事実誤認に該当するといわざるを得ない。よつて本控訴審判決の破棄を求める。
第二、控訴審第二点(原判決罪となるべき事実第二の事実の法令適用の誤)に対しても控訴審はその論旨に理由がないと判示した。しかし、この判示に対しても不服である。法人税法第一五九条による罰則の適用は納付税額が基礎となり、その税額の大小が科刑の基準となつている。なお、租税ほ脱犯のごとき経済的色彩の濃い行政犯は刑訴法四九一条によつて相続財産の執行にも影響を及ぼすほか、さらに憲法八四条における租税法律主義の見地からみても右判決はかかる重大な原則を全く無視したものといわざるをえない。かかる原則は税額の大小によつて歪曲されるべき性格のものでない。したがつて、法人税の納付税額並びにほ脱税額に対して国税通則法一一九条の適用は厳格に実施されなければならない。この点で本控訴審判決は憲法三一条及び八四条に違反する。よつて、判決の破棄を求める。
第三、控訴審第三点(青色申告承認取消処分以前に同処分がなされたものとして公訴が提起された点に関する法令適用の誤)に応じても控訴審はその論旨に理由がないと判示した。しかし、この判示に対しても不服を唱えざるを得ない。
法人税法一二七条一項三号による青色申告承認の取消は行政官たる所轄税務署長のみができうる行政上の裁量行為である。この権限は一行政官たる税務署長の職権に属する。これに応じて控訴審は公訴の提起日前に当該ほ脱税額に関して青色申告承認が取消された事実のないのにも拘らずすでに取消されたものと認定した。この独断的認定は起訴提起時の法人税法一五九条によるほ脱税額の算定に著しく影響する、かくして破棄を求める。
第四、控訴理由第四のその一(「山本インキ」からの三九〇万円の実仕入の存在を否認した点の事実誤認)に対しても控訴審は論旨に理由がないと判示した。この判示にも不服といわなければならない。
右上告趣意第一の申立の内容から原判決による仕入額の事実認定、計算認定の基礎となつた仕入事実と真実とは著しく齟齬するから破棄を免ぬがれない。
第五、控訴理由の第四のその二(仮名預金から発生した受取利息の被告法人への帰属性を認定した事実誤認)に対しても控訴審は論旨に理由がないと判示した。しかし、この判示も不当と思慮するゆえに不服である。本法人税違反のほ脱税額の基礎となるほ脱所得額のうちに仮名預金の利息が算入されているけれども期首時に存在した右預金元本の帰属及び元本たる預金の発生の源泉を全く究明せずに右発生利息を漠然と受入れてほ脱所得に算入した。この算定はほ脱所得以外の所得をも法人税法一五九条に定めるほ脱税額に算入したことになる。かかる事実の誤認は判決に著しい影響を及ぼすといわざるを得ない。よつて破棄を求める。
第六、控訴理由第五(量刑不当)についての判示に対しても不服である。
右上告趣意の第一ないし第五までの理由から憲法三一条及び八四条の違反はもちろんのこと、さらには、刑訴法四〇五条一項、同四一一条三号に該当する。この事理が量刑を不当に重く評価することにもなつている。したがつて、この点についても到底承服しがたい。
以上